花 の 器 と 翠 の 小 鳥

良くなるなんて誰が言った?



 行き先が決まったとはいえ、流石にいきなりそのままで強行軍と言うわけには行かなかった。
 検査が終わったのは夕方ごろだったが、その間ずっと付き添っていたジェイドや、心配でろくに眠れなかったらしいガイやティアは、安心した途端にどっと疲れが押し寄せたようだ。一晩中眠っていないのにも近いのだから、当然といえば当然だろう。
 アルビオールを運転していたノエルも、調整などでほとんど眠っていなかったとあって、彼らはとりあえず、そのままベルケンドで休むことにした。
 部屋割りは、万一のことを考えて、という理由で、ジェイドとルークが同室になった。これにはガイが異議を唱えたのだが、もしルークの身体に異変があった場合に備えて、という理由で、仕方なく引き下がった。
 だからと言って彼がアッシュと同室になれば、その時点から戦争がはじまるに決まっている。
 という訳で結局、アッシュとナタリア、ティアとアニス、そして残ったガイは一人部屋、という組み合わせになった。因みにノエルはアルビオールに泊り込むのだという。
 少しは休めばいいのに、とルークは思ったが、以前の旅の時から既にそうだったので、もう止めても無駄だということが経験上わかっていたため、あっさりと引いた。彼女は本気で音機関を愛している。
 そのせいもあってか、夕食を終えた後、ガイは早々に退散してしまった。ルークも疲れていたので、仲間におやすみをいうと、さっさと部屋に戻ることにした。
 軽くシャワーを浴びてから、ルークは宿のベッドに突っ伏した。胸がベッドに当たる感触が、新鮮と言えば新鮮なのかもしれない。しばらく眠ってからふと気がつくと、いつの間にかジェイドが戻ってきていた。
「あ、おかえり、ジェイド」
「よく眠っていたようですね。疲れましたか?」
 風呂から上がってきたらしいジェイドが、髪を拭きながらルークに問うた。
「ちょっとな。それよりジェイドのほうが疲れたろ? 昨日も寝てないのに、ずっと付き添っててくれてありがとな」
「いえ。軍人ですから眠らないようにするのはなれていますし、それにアニスじゃありませんが、また何か隠し事をされても厄介ですから」
 ルークは、そんなことしねえよ、と唇を尖らせる。
「さすがにお前に嘘つくだけ無駄なのはわかるよ」
「おや。意外と学習能力はあるんですねえ」
 ジェイドのその台詞に、ルークは苦笑した。以前の彼、いや彼女ならふて腐れていたところだが、前回の失敗で懲りたのだろう。
「それで、ルーク。あなたは何を気にしているんですか?」
 ルークは少し目を丸くした。それから表情を崩し、お前には本当に隠し事は出来ないな、と笑う。
「あなたはわかりやすすぎるんですよ。まだ本当の十歳児の方が、隠し事は上手ですね」
 それで? と促す紅い瞳に、ルークは困ったように眉を寄せた。
「別に大したことじゃないぜ」
「私にとって大したことかどうか、それを決めるのはあなたじゃありませんよ」
 ジェイドはルークのベッドのすぐ傍に近寄ってきて、端の方に腰掛けた。
「まあ、大体想像はつくんですが」
「なら聞かなくてもいいだろ」
「あなたから聞きたいんです」
 ルークは諦めたようにため息をついた。
「…別に。俺、ほんとにいろんなものの命を喰って生きてんだなって思っただけ」
「渓谷の植物のことですか?」
 ルークが戻ってくる際に、咲いていた花が次々と枯死した。それはルークが、足りない分の音素を補うために、それらから音素を奪ったせいだ。
「ああ。…だからちょっと、な」
 アクゼリュス、レムの塔。あるいは自ら手にかけたものたち。ルークが苦い顔をしている理由を、ジェイドは容易く思い出すことが出来た。それはジェイドにとっても苦い記憶であった。
「人は、何かを犠牲にせずには生きられない。動物だってそうです」
「…ジェイド?」
「世界だって、あなたを犠牲にしました。私たちの誰もが、あなたを犠牲にしたんです」
 ジェイドはルークの髪に手を伸ばした。戻ってくるときに伸びたらしい、長い赤橙色の髪が、シーツの上でやわらかく波打っている。それはまるで血のようでもあり、朝焼けの空のようでもあった。
「そんなこと言うなよ、ジェイド。あれは俺が選んだことだ」
 だから誰もは悪くなんかない、そう言うルークに、それでも、とジェイドは呟く。
「…それでも、あなたを失わずに済む方法があったのではないかと。…私は今でも、思ってしまうんですよ」
 ルークは身を起こすと、ジェイドの前に立った。見上げるジェイドに優しく微笑み、その腕を伸ばす。
 さらり、と細い髪を撫でて、ルークは言った。
「お前は気にしすぎだよ、ジェイド。俺はみんなに生きてて欲しかっただけ。それに、こうして戻ってきたんだから、もういいだろ?」
「…ルーク」
「…それに、さ」
 ルークは少し照れくさそうに微笑んだ。
「俺が戻ってこられたのは、ジェイドが…皆が、俺を呼んでくれたおかげだ。でなきゃ、もしかしたら俺、ずっと戻ってこられなかったかもしれない」
 ルークは以前よりほんの少し細くなった腕で、ジェイドの頭を抱きしめた。
「ありがとう、ジェイド」
 ジェイドはしばらく驚いたように固まっていたが、やがて表情を柔らかく崩し、ルークの背にその腕を伸ばし――

 そしてその時、ドアが開いた。

「ルーク、明日の出発のことなんだけ――?!」
 ティアが凍りついた。その後ろにいたアッシュの額に青筋が立つ。あらまあと、一人だけ妙に落ち着いたナタリアが、口元に手を当てていた。
「…大佐、だからルークに手を出したら犯罪ですって」
 ぼそりとアニスが言った。ジェイドはにっこりとそちらに微笑みかける。
「いや、これは誤解です。念のため」
「どこが誤解ですか?!」
「いや、ほんとに誤解だから、」
 慌ててジェイドから離れ、完全に沸騰しているティアをいさめようとしたルークの言葉に、笑顔でジェイドは補足を入れた。
「そうですよ。先に手を出したのはルークです」
「…ルーク? 本当なの?!」
 ティアにすごい剣幕で迫られ、ルークは及び腰になる。
「えあ?! いや、本当と言えば本当だけど」
 つうかややこしいこと言い出すなジェイド! とルークは叫びたかったが、その前にアッシュががしりと肩をつかんだ。彼の鋭い翠玉の瞳は完全に据わっており、ルークの心に更なる恐怖感を与える。
 アッシュは肩をつかむ手に力を入れ、精一杯力説した。
「悪いことは言わん! そいつはやめておけ!」
「あ、アッシュ?」
 いきなり意味のわからないことを言い出され、ルークは困惑する。そこに割って入ったのは、もう一人の当事者であるジェイドだった。
「おや、どうしてですか? 顔よし家柄よし地位よし財産よし、完璧じゃないですか」
 年齢が離れていることを除けば、お買い得だと思うんですがねえ、と、飄々と言ってのけた相手を、アッシュはさらに鋭い視線で睨みつけた。
「性格が果てしなく最悪だろうが!」
 俺はお前と兄弟になるのは耐えられん! と、アッシュが叫ぶ。当のルークは相変わらず、全く意味がわかっていない。
「酷いことを言いますねえ。さすがに私でも傷ついたりもするんですよ?」
「知るか! 貴様を弟にするぐらいなら、ガイの方がずっとマシだ!」
 頭の上でかわされている会話に、ルークの頭はついていかない。
 唐突に、ジェイドがその紅い瞳を細めて、ルークに笑いかけた。
「ねえ、ルーク。私とずっと一緒にいたいと思いませんか?」
 ルークはその笑顔に呑まれ、内容も確認せずに頷いた。ティアとアッシュが悲鳴を上げる。
「ルーク! あなた本気?!」
「屑! やめろ! 本気でやめろ!」
「え? ええ?」
 凄まじい剣幕の二人に、ルークはジェイドの背後に隠れた。おや嬉しいですねえ、とジェイドが笑う。
「まあ、いいじゃないですか。ガイは変わらず女性恐怖症ですから、正直この中では私ぐらいなものでしょう。今のルークとまともに結婚できるのは」
「け、結婚?! 今のそういう話だったのか?!」
 ルークが慌ててジェイドの服を引っ張った。彼はいつもの胡散臭い笑顔で振り返る。
「おやルーク、気がついてなかったんですか? 私とずっと一緒にいたいかと聞いたら、あなた頷いたでしょう?」
「え、あ、それは」
「やめろ屑! そいつの言葉を真面目に考えるな!!」
 流されそうなルークを必死で引きとめようとアッシュが叫ぶ。ジェイドはすうと紅い瞳を細め、肩をすくめた。
「酷い言い様ですね。私はかなり本気なのですが」
「尚更悪いだろうが! 大体、こういうときに必ず出てくるガイはどうしたんだ?!」
 アッシュに言われてはじめて、彼らはルークに対しては過保護に過保護を重ねると言っても過言ではない男がこの場にいないことに気付いた。彼の部屋はジェイドとルークの部屋の隣だから、この騒ぎが聞こえていないはずはない。
「ガイなら多分、今頃ぐっすりと眠っていますよ」
 ジェイドの言葉に、一瞬その場にいた誰もが固まる。
「…まさか大佐、何か盛ったんですか?」
 アニスが、まさかそこまでするか、という意味を言外に含ませながら問うた。ジェイドは顔色一つ変えずに肯定する。
「夕食のときに少々。大丈夫です、副作用は確か無かったはずですから」
 元軍人であるはずのティアやアニスやアッシュもいるのに、誰一人として気付かなかった。それらしい動きもしていないのに、一体いつ盛ったというのだろう、と彼らは心ひそかに恐々とする。
 アッシュはルークをジェイドの背後から引きずり出し、ティアの後ろへと放り投げた。おいちょっとなにするんだよというルークの抗議を一睨みで黙らせ、彼はジェイドに向き直った。
 鮮やかな翠の瞳が怒りをこめて、真っ直ぐにジェイドを睨み据える。それを迎え撃つ緋色からは、しかし全く対照的に、揶揄と楽しみの感情すら認められた。
 まるで呪詛でも吐くかのように、もの凄まじい気迫でもってアッシュは唇を開く。
「お前だけは絶対許さん」
「心外ですね。大切にしますよ、兄上?」
「やめろ気持ち悪い! それに俺は自分より18も年上の弟を持った覚えも持つ予定もない!!」
 本気で鳥肌を立てているらしいアッシュに、ジェイドは密やかに笑う。彼は、これだから若者をからかうのはやめられない、と、本人に聞かれたらまず確実に殴られそうなことを、本気で思っていた。そこがジェイドの最も性質の悪いところなのだろう。
 しかしこれ以上からかいすぎて、先ほどの言葉をすべて冗談にされてもたまらない。このあたりが潮時だろう、彼はそう判断し、まあ落ち着いてください、と、意識的に少し改まった口調になった。その僅かな変化を感じ取り、アッシュもほんの少し警戒態勢を解く。
「今のは半分は冗談としても、自分より18如何の科白は、貴族としてはいかがなものかと思いますよ」
「…どういうことだ」
 ジェイドはにっこり微笑んだ。これは途轍もない嫌味を言うときの表情だ、と直感的にアニスは悟った。
「あなたがうっかり戻ってこなかった場合には、ナタリアが辿っていたかもしれない道ということです」
 今の今まで観客に徹していたナタリアは、突然表舞台に引き出されてきょとんとしていた。ジェイドはナタリアに向けて、先と変わらぬ笑顔を向ける。
「詳しいことは知りませんが、アッシュが戻ってくるまでにナタリアに持ち込まれた縁談は、バチカルだけで合わせても両手の指で足りないはずです」
 違いますか? と問われ、ナタリアはそういえば、と呟いた。
「お二人がいなくなられてから、一年ほどあとぐらいから増えましたわね」
「年齢層もかなり広かったでしょう」
「そうですわね…年の近い方が多かったですけれど、上は二十歳下は十五歳、平気で離れていましたわ」
 ナタリアが本当に王家の血を継いでいない事実は、先年の騒動により公然の秘密となっている。それでもこれだけの求婚者がいるのは、彼女の人徳なども勿論あろうが、王家、というネームバリューも大きな理由となっている。現在国王は彼女だけを自分の子供として認めているため、それなりの地位があるものでなければ彼女に求婚など出来ない。そしてキムラスカにおいてそれだけの地位を持つのは、やはり王家に連なるものが多い。言い換えればナタリアと結婚すれば、王になれてしまう立場の者たちだ。
「ルークも元はレプリカとはいえ、立派にファブレ公爵家の血を継いでいます。ファブレ公爵がもしルークを娘として認知してしまえば、ナタリアほどではないにしろ、縁談が舞い込むのは間違いないでしょうね」
 ジェイドが眼鏡のフレームを手で押さえる、その仕草と共に言い放った言葉を理解するのに、彼らはしばらくの時間を要した。
「ファブレ公爵家が、縁談でどうしても断れない相手、というのは殆ど存在しないでしょうが、利害が一致してしまってうっかり受けたりでもしたら、年齢差なんて関係ないに等しいですよ?」
 彼にしては珍しく直接的に止めを刺し、ジェイドはティアの背後から身体を出したルークに向き直った。
「だから悪いことは言いませんから、私か、最悪でもガイにしておきなさい。それなら旅の間に既成事実を作ったなり何なり、いくらでも言い訳は立ちますから」
「…ジェイド」
 ありがとう、とルークは微笑んだ。
「でも悪いけど、俺縁談が持ってこられちまうほど長くバチカルにいるつもりないし」
 ルークの告白に、周囲の驚きの視線が集まる。
「何故です、ルーク?」
 ナタリアが首をかしげた。周りの人間の思いも、それにぴったりと一致している。ルークは言葉を捜すように、しばらく逡巡してみせた。
「あの場所はもう、俺の帰りたい場所じゃないってことだ」
「どういうこと?」
 アニスの問いに、ルークは、わからない、とかぶりを振る。
「わからないけど、別にもう、帰りたいだなんて思わない。もちろん懐かしくはあるけど、…そうだなあ」
 ルークは、何て言ったらいいのかわからないけど、と苦笑した。
「多分、俺の本当の身体は、もう第七音譜帯に溶けちゃって、とっくの昔に無いんだ。これは少しだけ残った俺の欠片を集めて、それでも足りなかった分を、他の生き物に命を貰って作った別の身体だから、あの場所の記憶がもうほとんどない。…そのせいかもしれない」
 もともと出たい逃げ出したい、って思ってた場所だから、執着なんてほとんど無いも同然だったし、と、何でもないことのようにルークは続けた。
「ルーク…」
 ティアが気遣うように名前を呼ぶ。
 周囲の暗い表情に気付いたのか、ルークは困ったように笑って、わざと明るく言った。
「まあ、そういう訳だから。あんまり気にしなくていいよ。それに俺、今は嬉しいんだ。皆にまた会えたし、しかもこんなに俺のこと心配してくれているし。それだけで十分だ」
 その言葉に、何か反論をしようと待ち構えていたアッシュは、すっかりその気が削がれてしまった。その代わりに、深くため息をつく。
「…好きにしろ。俺はもう知らん」
 それがアッシュの不器用な承諾だと理解して、ルークは再び微笑む。
「ありがとう、アッシュ」
 返事をしないアッシュに、ナタリアはふわりと微笑み、その腕を取った。
「それでは私たち、そろそろ部屋に帰りますわね」
 軽く辞去の礼をすると、彼女はアッシュを連れて部屋を出て行った。
「ティア、あたしたちもそろそろ戻ろっか?」
「…え、ええ…」
 大佐、くれぐれもルークに手を出さないようにしてくださいね〜、と笑顔で言い残し、アニスはティアの腕を引いていく。
 その背中を見送って、それからルークはジェイドを見上げる。
「じゃあ、俺たちもそろそろ寝るか?」
 眩しいまでのその笑顔に、アニスの刺した釘の意味がルークにはわかっているのだろうか、とジェイドは一瞬悩んだ。
 結論は、いわずもがな。ジェイドはそうですね、と頷いた。
「それにしてもさ、お前がそんなに俺のことを考えてくれてたなんて知らなかったよ」
 結婚の話まで出すなんてさ、と、少し感動したようにルークが言った。ジェイドは、いまだかつて誰も見たことのないほど優しい笑顔で、その言葉に答える。
「心外ですね。私はいつだって、あなたのことを考えていますよ」
「…本当に?」
「残念ながら」
 ちっとも残念そうに思っていない口調で、ジェイドが言った。
「なんなら、キスの一つもしてさしあげたいところなのですが」
「…いや、それはさすがに遠慮しとく」
 ジェイドが冗談めかして言うと、ルークは少し顔を引き攣らせながらそう答えた。
「さすがに男同士だし、…いや、今はもと男だけど。友情の延長線でそこまでしてもらうのは、悪いからな」
 ジェイドは妙な表情になってルークを見つめた。ルークはしばらくして、その視線に気付く。
「…どうしたんだ? 変な顔して」
「…いえ」
 そこまで鈍いとはさすがに思わなかった、とはジェイドは言わなかった。ある意味予測の範疇ではあったからだ。
 ルークに本当の好意を伝えるのは至難の業だ。ロニール雪山を活火山に変えるほうがまだ簡単かもしれない。
「そういえば、念のため聞いておきたいのですが、あなたはこの先どうするつもりなんですか?」
 ジェイドはさりげなく話題を転換した。ルークは、ああ、と頷く。
「フォミクリーの施設を破壊してまわる、って言うのは冗談で」
 あまり笑えない冗談を言って、ルークは笑った。
「俺は俺が、俺と同じレプリカにできることをするよ。…世界中全てを幸せには出来なくても、俺に出来ることをしたい。もちろん、その為の知識とかは全然足りないから、まず物凄く必死で勉強しなきゃならないだろうけど」
 だけど今度は命に期限がついてない、とルークは呟いた。そして目を伏せる。
 ジェイドは、それなら、と言った。
「それなら、私のところへ来ますか」
「…ジェイド?」
 ジェイドの眼鏡の奥の瞳に、ルークのきょとんとした表情が映る。そのあどけなさは、まるで小さな子供のようだ。そう思ってから、その成長したからだの中身はまだ、たった十歳にも満たない子供だったと思い出し、ジェイドは自分の言おうとしていることにほんの少しのためらいを感じた。
 それでも彼は、その提案を口にする。
「私はフォミクリーの発案者です。それにあなたが必要とする知識も、私が教えられることは多いでしょう」
「…いいのか?」
 小さな戸惑いすらも呑むように、ジェイドは真っ直ぐな視線をルークに向けた。
「かまいませんよ。あなたが望むのなら」
 ジェイドは最終的な判断をルークに任せた、ふりをした。ルークは少しためらうようなそぶりを見せ、首を縦に振る。予測通りの答えに、ジェイドの薄い唇が緩やかな弧を描いた。

 哀れな子供は、その手の内に。


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2006/3/12 ジェイドとルーク

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