The azure is too far away.
 吐き気がするほどに空は蒼く遠すぎて、ちっぽけな自分の手のひらじゃ、あいつのいる場所には到底届かない。
 何度も何度もその事実を確認しては、身勝手な絶望に殺される。


 あのいきものは優しすぎたのだ、と思う。
 最後になってようやく生を知った、その短すぎる生涯に自分で幕を引いた、焔。
 結局自分も世界も捨てられなかった。そしてそのために、自分のいのちそのものを差し出すしかなかった。
 ルーク。
 聖なる焔の、光。

 いつだったか本で読んだ。
 蝋燭の炎は消える瞬間が最も明るいのだ、と。
 俺がそれを読んだのはまだ十代の頃、あいつにまだ殺意を持っていて、それでいて殺せなかったあの頃。
 逃げ道のような賭けをした、その頃。
 俺はそれを読んで確か薄く笑ったはずだ。炎は消える瞬間が最も明るい。
 それはそうだろう、俺の復讐を最も明るく彩るのは、ルークが死ぬときなのだから――そう思ったのを、覚えている。
 この手でその身を朱に染め、この手をその血で汚すことで、俺の復讐を果たすのだ。
 ずっとそう思っていた。

 なあ、ルーク。
 いつからだろう、お前が俺に向けていた、真っ直ぐな信頼をなくしてしまったのは。
 一番の親友は、いつだって俺だったはずなのに、お前はいつの間にか俺のことを見なくなっていた。
 俺が一度お前を見捨て、その手を離したときか。
 俺のずっと抱えていた殺意を、最悪の形でお前に知られたときか。
 いちばん不実だった親友を、それでも親友だと笑ってくれた、その笑顔を、なくしたのは。

 そうして炎は消えてしまった。
 その帰還を、ほとんど祈りにも近い気持ちで待っている俺の気持ちを、きっとお前は知らないだろう。
 確かに消える瞬間は明るかった。それは間違いではなかった。
 けれどそれは、どうしようもないほど真っ暗な光だった。
 その光はきっと、俺の人生のその先をずっとずっと照らす光だ。
 いつか他の誰かに惹かれることがあっても、きっと。
 こころのなかで俺は永遠に、その焔の名前を呼ぶのだ。
 暗い世界の空の、たったひとつのひかり。


 なあ、ルーク。
 あの蒼は、あまりに遠すぎる。




2006/3/17 ガイ→ルーク
BGM:静寂はヘッドフォンの中(See-saw)

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