Red Alart
※すいません熱斗くんが女の子です(またかよ!)
苦手な方は回避行動をお取りになることをおすすめします…!


 彼女を女性として意識したことがないのかと問われれば、伊集院炎山は常にイエスと答えてきた。
 ひとりの女の子である前に、ライバルであり戦友だった。彼女の、本来の性別を感じさせないその服装と話し方にも、おそらくその原因はある。
 (では何故、今、オレはこんなにもショックを受けているんだ?)
 どうということはない光景だ。子供が二人、寄り添いあって眠っているだけで。
 片方が女の子で、もう片方が男の子。いってみればそれだけの話。微笑ましく眺める必要はなくとも、少なくともわざと見過ごすことは容易な対象であるはずだ。
 眠っている間にバランスを崩したのだろう。少女の膝の上に、少年の頭。彼がいつも被っている赤い制帽は、今は床に落ちていた。
 二人とも自分の友人で仲間。そう、そのはずだった。少なくとも胸の内に巣食う、こんなどす黒く冷たい感情を、向けるべき相手ではないというのに。
 バンダナを外して下ろした髪の下、俯いているせいで顔の上半分が見えない代わりに、少女の柔らかそうなあかい唇が小さく開いている。それに対して横顔を向け、目を閉じた少年の顔は、いくら端整でも、どう見たって、すでに男のそれだ。
 もう少し少女の頭が落ちれば――あるいは少年が顔を上げれば、少女の唇は少年の頬と触れ合うことになるだろう。そう思った炎山の胸の奥に、またちりちりとつめたい火が灯る。
 気付いた。気付いてしまった。気付かなければよかった。炎山は片手で顔を覆う。その指の隙間から、彼らの姿が見える。
 熱斗がどうしようもなく女の子なのだと、わかってしまった。
 (オレは――どうしたら?)
 全く今更だというのに、炎山はひとり、途方に暮れる。


2008/10/25
ブルー・デイズ
「うわああ!」
『熱斗くん?!』
「熱斗?!」
 しまった、と思ったときにはもう遅かった。オレの体はあっさりと吹っ飛ばされて、受身を取ろうと身構える。けど、そのあとやってきた衝撃は、思ったより強くなかった。柔らかいけど重さのある何かにぶつかったような、そんな感触。
「っく…」
 背中の方から聞こえてきたその呻き声には、嫌というほど聞き覚えがあって、まさか、と思いながら後ろを振り返ると、そこにいたのは、やっぱりというか、炎山だった。オレは、正直、ものすごくびっくりした。
「な…っ、何やってんだお前!」
 訓練中だとはわかっていたけど、思わず大声を上げる。だってこいつ、何やってんだ。だけど炎山はすぐにオレを自分の上からどけると、右手をソードに変えた。
「馬鹿熱斗。戦闘に集中しろ」
 ちらっとオレの方を横目で見ながら、そんな台詞だけ。そのまますぐにウイルスの群れに突っ込んでいったあいつにはちょっとむかっときたけど、ほんとのことだから何もいえない。
「わーかってるよ!」
 ああ、もう、すっげームカつく! もうほんとに、ただでさえあんまり良くなかった機嫌が、急降下していくのが自分でわかる。
 ウイルスの群れがオレを取り囲んで、そのなかには、さっきオレを吹っ飛ばしたのと同じのもいた。…ああ、もう!
「一気に片付けてやる! バルカン、スロットイン!」

 今日のデータは散々で、特にオレは集中力がないって名人さんにちょっと叱られて、炎山とライカにも嫌味を言われて、たまたま様子を見に来てくれてた真辺さんは、何かを察したのか、あんまり無理しないでね、と優しく笑った。もともと今日のオレの調子を知ってるロックマンとパパも、慰めるように微笑むだけで、何にも言わないでくれる。
 オレは確かに女の子で、ネットセイバーになったばっかりの頃はそれをあんまり気にしたことなかったけど、最近はそういうわけにいかない。体型だって変わるし、それに伴って、いろいろ変わるところだって出てくる。その変化の中でも、一番うっとうしいやつが来る時期に、オレは差し掛かっていた。
『熱斗くん、気にしないほうがいいよ』
「わかってるんだけど…」
 ロックマンには笑ってみせるけど、でもやっぱり、気分は沈む。
 今のままではいられない。わかってるんだけど、少しでも対等でいたくて。もちろん炎山やライカがそういうのどうこうで何か言う奴だと思ってるわけじゃないんだけど、でも、これはつまり、オレの気持ちの問題だ。だってオレはゆりこみたいに強いわけでもないし、プライドみたいに頭がいいわけでもない。
 今日、炎山に庇われて、ちょっと、ほんとにちょっと、へこんだのは事実だ。
「って言うか炎山も炎山だよな。いつもは庇ったりしないのに、いきなり今日に限って」
『うーん…でも、熱斗くん、今日はちょっとやっぱり調子よくなかったから、心配されてたんじゃない?』
 ロックマンの言葉が、重くのしかかる。オレは溜息をついた。
「あーあー。オレ、男に生まれときゃよかったな」
『熱斗くん…』
「なんてな。さ、早く帰ろうぜ」
 出来るだけ明るく言って、オレは走り出した。メトロの時間まで、あんまりない。これを逃すと次は十五分後なんだけど、オレのお腹はそんなにもたない。
 のに、おい、と横合いから声をかけられて、オレはその場で足踏みして止まる。そこにいたのはライカだった。
「今、帰りか?」
 尋ねられて頷く。ライカはオレと、オレの肩の上に乗ったロックマンを見比べて、それから、軍服の中から何かを取り出した。やるよ、と差し出されたそれは、…
「…お前」
「サーチマンに言われた。余計な世話なら悪かったな」
 正直微妙なキモチだったけど、でもまあこれもライカなりの気遣いなんだと思って、ありがたくいただいておいた。水なしでも飲めるやつだ。さすがライカ、なんでそんなもん持ってるんだ。というオレの心の声を読んだのか、真辺刑事に分けてもらった、というライカの頬は赤い。つられてオレの顔もなんか熱くなる。
「そ、そっか。あ、ありがとな!」
「…いや」
 ライカはすぐにそっぽを向いて、それから足早にどっかに行ってしまった。オレも、メトロの時間、と思い出して、あわててリノリウムの床を蹴る。
『あんまり焦るとこけちゃうよ!』
 苦笑交じりのロックマンの忠告に、わかってるって、と答える声は、びっくりするくらいに軽かった。


2008/10/25
Green-Eyed Monster
 やわらかな感触が頭の下にあって、ライカはそれが他人の膝だと気づき、あわてて身体を起こした。そうしたら勢いあまって、先ほどまでライカに膝を貸してくれていた少女の顎に頭突きして、双方しばらく、患部をおさえた。
「…なにをやってるんだ、お前ら」
 呆れたような第三者の声に、ライカがそちらに視線を向ける。案の定、おそろしく整った顔を皮肉っぽくゆがめた少年が、扉の傍に立っていた。
「ってーな…なにすんだよ、ライカ!」
 その声に、ライカははっとする。なんと自分に膝を貸してくれていたのは、同僚(といってもいいのか。ちょっと判断に困る)だったらしい。
「すまん、熱斗」
「っとに…まあ、いいけどさ」
 折角膝貸してやったのに、と口を尖らせる熱斗もどこか眠そうで、ようするに自分が眠ったあと彼女も寝てしまっのだということは、容易に予想がついた。別に頼んでない、と反論しようかとは思ったが、結局眠気に負けて彼女に押し切られたという事実は変わらない。悪かったな、ともう一度謝って、ふと入り口の炎山のほうに視線をやった。そこではた、と気付く。
 まるで置いていかれた子供のような、珍しい彼の表情。それを見た瞬間、ライカは悟ってしまったのだ。
 慌てて、不自然にならない程度に素早く、熱斗から距離をとる。そして、呆然としている炎山に声をかけた。
「すまない、眠ってしまっていたようだ。実験の時間か」
「…あ、ああ。光博士が二人を呼んでる」
「わかった」
 動揺を一瞬でなかったことにする炎山のポーカーフェイスは流石だ。
『ほら、熱斗くん、起きなくちゃ』
「んー…起きてるって」
 まだ半分夢の世界にいるらしい熱斗を、ちらり、と青い目が追う。案外素直なやつだ、とライカは思う。
「すまないが炎山、熱斗と先に行っててくれ」
「…は?」
「俺は手洗いに行ってくる。じゃあ、あとでな」
 仮眠室を出ると、廊下の空気は少しひんやりとしていた。目的の方向に歩みだしても、サーチマンは何も言ってこない。
「サーチマン」
 呼べばすぐに、ホログラフィの小さな姿が現れる。ロックマンさえ絡まなければ、サーチマンはいつだって忠実で、優秀なナビだ。
『何でしょう、ライカ様』
「お前、もしかして、知っていたのか?」
 問えば、はい、と即座に歯切れの良い返答だ。知らなかったのは自分だけなのか、とライカは少し落ち込んだ。
『光自身も、まだ』
 付け加えられた言葉に、そうか、とうなづく。たしかに熱斗の鈍さは並々ではない。
「あいつも難儀な恋をする」
 その不器用さは嫌いではない。ライカにも覚えのある感情だった。叶うか可能性があるか、それとも決して叶わないか、違いはそこだけだ。
 ライカの呟きに、サーチマンは黙ったまま、何も答えなかった。


2008/10/26




言い訳

熱斗くんが女の子である必要性は正直全く何にも感じないのですが(お前)。お月様ネタ。
炎→熱+(→)ライ→プラという。え、炎熱のつもりです。隠れサチロク。…全然隠れてない。
一人称をいじるかいじらないか、とか考えるのが面倒なのでそのまんまです。いいんだ結局炎熱だから。
「女の子」という記号をアニメの熱斗くんに持たせると、立ち位置がちょっと特殊になるよね、という。別に女の子なのが炎山でもライカでも、正直熱斗くんだけが男の子でも全然構わないんですが。女の子攻め万歳!
アニメの熱斗くんってあの性格(あの鈍さ! 自分の恋愛に対して全く興味がないとしか思えない! それかもう本能的にメイルちゃんしか目に入ってないか、…と書きながらそれはない、と即座に否定できるこの哀しさ)のせいで、わりと性別を超越したお付き合いをするこだなあと思っていたので。小学生だから?
でもそれに対して、ゲームの熱斗くんはわりと初期からメイルちゃんのことをそういう意味でちゃんと好きですよね。自分の気持ちを恋愛感情だと思っているかどうかは別として。メイルちゃんの気持ちも恋愛感情とはわかってないけど、「大事にしたい」っていうポイントはちゃんと受け取ってる。鈍いけど。というか恋とかそういう意識がないんだな、まだ。
…えーと、メイ熱メイは書けないけど好きです。ついでに熱←アイも好きです。かわいい女の子はみんな大好きだ。公式で満足しちゃうけど。
アニメとゲームで熱斗以上に恋愛に関するスタンスが違うのはロックマンだと思います。真反対というか。だってゲームの兄さん完璧に自覚してるよあれは。それに比べてアニメの朴念仁ぶりといったら…あまつさえアクセスだとロールに頬染めるより先にサーチマンに頬染めるし。それどんなサチロク?
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