AC
 まいったなあ。熱斗くんをひとりにしてしまった(かもしれない)。
 ボクは熱斗くんの傍にいることだけが存在意義なのに――いや、まあ今も確かに、「熱斗くん」の傍にいるんだけど。
 ボクの大切な弟を、生涯かけて守ると誓っているのに。
 「僕」は独りだけ、何故か異世界に飛ばされている。

 ネビュラグレイとの最後の戦いのとき、熱斗くんの声が聞こえたところまではよかったんだ。
 そのあと、その「声」に引きずられるように、ボクはその場から転送されて――気がつけば、よく知っているようで、見知らぬPETの中。
 混乱していたのはボクも、こっちの「熱斗くん」も同じで、いろいろパパと話し合って、それでようやく、今、どういう状態になっているのかわかったんだけど。
 なんでもこちらの世界に発生していた次元の歪みと、ボクの世界で起動していたココロサーバーが同調して、その結果何故かボクがこっちの世界に引きずり込まれてしまったらしい。
 何というか、僕を呼ばわる熱斗くんの声は確かに熱斗くんの声だったんだけど、熱斗くん違いだったというか。ナビとしても兄としても、正直すごく情けない。
 それでもこっちの世界の熱斗くんは、異世界のロックマンでもロックマンはロックマンだろ、なんて笑ってくれたんだけど。
 溜息のひとつも、つきたくなる。

「こんな状態でお前と別れることに不安がないわけじゃないが…」
 そういって炎山くんは、アメロッパに残るつもりだと熱斗くんに告げた。
 熱斗くんはすごくびっくりしたみたいだけど、理由を聞いてみれば、すごく炎山くんらしい。
 こっちの世界の炎山くんと熱斗くんは、ボクの世界の熱斗くんと炎山くんよりもずっと仲良し――といったら語弊があるけど、ともかく、ライバル、というよりはほんとうに仲間、っていう感じで、ちょっと新鮮だった。もっともそれはボクとブルースの関係にも言えるらしくて、炎山くんがそういったすぐあとに、ブルースが僕のほうを気遣うようにしてくれたことでもわかる。
 ブルースって冷血ってわけじゃないけど、ひとを気遣うことに関しては、結構無頓着というか、そういう風にプログラムされてないんだからしょうがないんだけど、ともかく、こっちのブルースの方が、ボクの世界のブルースよりも、どことなく空気がやさしい。
「クロスフュージョン自体は問題なく行えたから、心配しなくていいよ。それよりブルースと炎山くんも、頑張って」
「ああ。お前らもな」
 こちらの世界とボクの世界の最大の違いは、クロスフュージョンと、アステロイドの存在だと思う。まさかナビが実体化したり、ナビと合体したりする技術があるなんて、誰が想像できると思う?
 だからこの世界のデューオとボクの世界のデューオも、同じ脅威は脅威でも、そのレベルは全く違うように感じてしまう。実際のところどうなのかは、まだ、ボクはこちらの世界のデューオに会ったことがないからわからないけど。
 でも一番恐ろしいのは、いくらボクが熱斗くんと合体してるとはいえ、熱斗くん自身が直接戦闘に赴かなければならないってことだ。いくらなんでも、訓練も受けていない小学生を実戦に出すなんて、ホントどうかしてるよ。戦闘自体はボクの体内に記憶されているデータから、戦い方を学んで使いこなしてるとはいっても、ナビと違って熱斗くんは死んでしまえば、ほんとうの意味でそれきりだ。もちろんナビだってデリートされちゃったら終わりなんだけど、バックアップデータを再生すれば、少なくとも外見上はそれで済むことだ。でも人間はそうは行かないのに。
 これは炎山くんにもいえることで、だからボクはブルースに、そこの部分は怖くないの、って聞こうかと思ったけどやめておいた。一度不安を口にしてしまえば、何よりボク自身が戦えなくなりそうで怖かった。
「じゃあ、元気で」
 ボクとブルースは握手した。そのとき、現実世界のほうから、戸惑うような炎山くんと熱斗くんの声が聞こえた。

 心配しなくていいよ、とブルースにいったばっかりだったのに、結局、ボクと熱斗くんは、クロスフュージョンを行うことが不可能になった。
 原因は高すぎるシンクロ率――100%を突破する数値を記録したそれだった。
 熱斗くんの身体はその負荷に耐え切れない、と判断したパパに止められたのだ。熱斗くんは勿論嫌がったけれど、ボクには心当たりがありすぎて、とても拒否なんか出来なかった。
 ボクはそのときにやっと、こっちの熱斗くんと、ボクの世界の熱斗くんの違いを知ったんだ。いや、正しくは、そうじゃない。
 これは、この世界のボク達の関係と、ボクの世界のボク達の関係の在り方の違いだ。
 双子か、否か。たったそれだけの違いが、ボク達をこんなにも分け隔てる。こちらの世界のボクが、クロスフュージョンに反対しないのも、つまりはそういうことなんだと思った。

 ボクにとっての光熱斗と、僕にとっての光熱斗は、同一だけど異なる存在。でもこの世界では、その二つはきちんと重なる。
 ううん、ちがう。二つに分かれているのは、ボクという存在の方なんだ。だって熱斗くんが二人いるわけじゃないんだから。
 光彩斗としての僕と、ロックマンとしてのボク。熱斗の兄としての僕と、熱斗くんのナビとしてのボク。
 今、どちらのボクも、僕自身を苛む。
 僕の心のつながる先、ボクの双子のココロ、ぼくの片割れの声が、この世界にいるボクには届かない。

 ボクは熱斗くんを、敵地にひとりにしてしまった。


2008/10/23 TOCロックマンinアニメStream




言い訳

Convertionの逆バージョン。とてもロク熱。
でも、たとえばゲーム熱斗とロックにCFの機会と必要性が与えられたとすれば、彼らは迷いなくCFすると思います。だって結局は熱斗くんとロックマンだし。
で、結局、アニメの青組は双子じゃないという設定でFAなんですか?
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