光は大変なものを以下略
 光熱斗は友人だ。
 かつてはライバルと名乗っていたが、彼がネットバトルを以前ほどしなくなったので(これはしかたないことだ。彼の進む道程に、ネットバトルは必ずしも必要ではない)、何のライバルかわからなくなって、結局もとライバル兼友人という何とも曖昧な位置で落ち着いた。
 だから連絡が取れなくなって、心配するのは、普通のことだと思っていた。
(しかしこれは予期していなかったぞ、光…)
 アッフリク奥地で、まさかに、探検隊ごっこなんぞをしているとは。
 おおー炎山ひさしぶりー、なんて緊張感のない声でへらっといわれたときには、さすがに眩暈がした。
「ひさしぶりー、じゃないだろう。お前、ご両親や友人知人にきちんと連絡取れ」
「いや、わるかったって。だって今俺ロックマンと一緒じゃないしさあ」
「そこが問題なんだ! お前は!」
 そう、よりによって熱斗は、ロックマン抜きのPETを持って、海外に旅立ったらしかった。
 何でロックマンを置いていったんだと聞いても、はっきりした返答は得られない。
「いいかげん俺も兄離れしなきゃな、と思って」
 冗談めかして言ったそれが本気なのかどうなのか、俺には判断がつかない。
「…ロックマンは、お前の兄本人じゃないだろう」
 無神経を承知でそれを言ったのは、光のためというよりは、ロックマンと、それからブルースのためだった。
 ネットナビはオペレーターに切られれば、存在価値を失う。そしてロックマンのオペレーターは、この目の前にいる光熱斗以外の誰にも務まらないだろう。
 それはブルースと俺でも、同じだ。カスタマイズを繰り返し、最早もうひとりの自分と言っていいほどの存在であるネットナビ。
 特別なのは、ロックマンが光の双子の兄の遺伝子データを持っていることだけだ。
 光はは苦笑して、そう思えれば楽なんだけどな、と呟いた。
 彼は変わった。俺はふとそう気がついた。
「ならば、何を迷っている?」
「迷っているというか…今更、知ってびっくりした」
「うん?」
「殺しあって生きるってこういうことか、って」
 俺は、それまであえてみないようにしていた、光の肩に担がれたものに、自然と視線が吸い寄せられた。
 どう見たって、狩猟用ライフルと、狩の成果だ。いつの間に免許を取ったのだろうか。
 それに、解体の時についたのだろうか、あちらこちらに赤黒い染みが、光の服に付着しているのも見て取れた。
「…極端だろう」
 そこまでやるか、というのが本音だが、裏返せば、光にとってロックマンはそれほどまで大事なナビだということだ。
 素直に大学を出て、科学省にストレートに入って科学者として活躍する道だってあっただろうに、何故こんな遠回りをするのか、俺にはわからない。
 もっとも、光にとっては遠回りでも何でもないのだろうが。
「俺にとっては必要なんだよ」
 ふて腐れたように言う光の台詞は、やっぱり予想通りだった。
「だからって音信不通はやりすぎだ。何で俺がこんなところまで出向いてきたと思っている」
「…え、ちょっとまて、まさか俺のせい?」
 溜息を返事に代えると、光はさっと顔を蒼褪めさせた。
「うわ、マジで?! ほんとごめん」
 手を合わせて俺を拝む光に、全くだ、とため息混じりに零せば、光の頭がさらに下がった。
「…まあ、何事もなければそれでいい」
「ありがとな、炎山」
「ふん」
 俺は光に背を向けた。当初の目的は果たされた。これから、オフィシャルの仕事だって入っている。
 だから別に、照れくさかったとか、真っ直ぐに向けられた笑顔が眩しかったとか、そういう理由ではない。


2008/7/25 大学生な炎熱
ライカは大変なものを以下略
※女の子熱斗ネタです。苦手な方は回避行動をお取りになることを推奨します。
あと何というか、ライカと熱斗が非常にあけっぴろげです。幸薄い炎山さまが苦手な方もブラウザバックをなさるのが吉です。


 ところで恐ろしいことに、光熱斗は女だ。
 どう見たって男にしか見えなかろうが、幼馴染の少年と並ぶと「可愛い彼女ね」と話しかけられようが、熱斗は女だ。
 なのでライカは大変後悔をしていた。
「その、光」
「んん?」
「…お前、ちゃんと第二次性徴は来ているか?」
 驚いたのは、たまたま運悪くアメロッパからニホンに帰国していた伊集院炎山である。彼は危うく口に含んだコーヒーを吹きかけ、涙目で問題発言を放った青年を睨みつけた。
 しかし当のライカと熱斗はけろっとしており、特に熱斗のごときにいたっては「だいにじせいちょう?」などとロックマンに尋ねている始末だ。
『人間はお年頃になるとね、身体が男らしくなったり女らしくなったりするんだよ。ひげが生えたり、胸が出てきたりね』
 あーあれか、生理とかか! と頷く熱斗に、羞恥心はおよそ見られない。
 彼女の女らしさの欠如は、生物学的云々の問題のような気が全くしない炎山だった。
「でもそれが、いったいどうしたんだ?」
 当の熱斗は、なおも不思議そうに首を傾げるだけである。
「俺が女らしくないのはいつものことだろ? 今更心配するようなことか?」
 そこは諦めるところじゃないだろう、と炎山は危うく突っ込みかけた。要は意識の問題だ意識の。
 だが、ライカはもじもじとして決まり悪そうに、だからその…と口ごもった。珍しい。
「…初めて会ったとき、俺は結構容赦なく、お前の腹にボディブローを叩き込んだと思うんだが」
「あーあれか」
 初耳だった。炎山はぎょっとして、そのまま聞き耳を立てる。
「でもまっさかあれが原因なわけねえだろ、だいいち俺はちゃんと生理きてるぜ」
「そうか。ならよかった」
 青春の恥じらいも何もあったものではない、実にからっとした会話に、炎山はいちいちうろたえている自分の精神がおかしいのかと不安に思った。
 時にしてライカ十七歳、炎山・熱斗は揃って十六歳。
 炎山がこの破天荒なライバルと出会ってから実に、五年もの月日が流れようとしていた。五年あれば、中学生だった子どもが成人してしまう。それだけたっても進歩も何も見当たらない熱斗がすごいのか、それとも初対面の人間にボディブローを仕掛けておきながら、今更それの心配をするライカが非常識なのか。ライカの心配はもっともだが、ある意味もっともだが、しかしやっぱり何か間違っている。
「もし熱斗が女性らしくない原因がオレにあったとしたら、責任を取らなければならないからな」
「ひでーなー」
 だから熱斗、そこは笑って流すところじゃない。突っ込み疲れながらも、律儀に心の中だけで反応する炎山は、心底真面目な男である。
「そうじゃなくても熱斗は俺の嫁だがな」
 もうどこからつっこめば、と遠い目をする炎山に、どこか諦めたような声で、気にしないのが一番だよ炎山くん、とロックマンが言った。
 全くもってその通りだ。そうできれば。そうしたかった!
 いささかげんなりとした炎山を気にも留めずに、熱斗とライカは相変わらず、幸せそうに他愛ないことを囁きあっている。


2008/7/25 高校生なRGBで熱斗は女の子 同年10/23改稿


言い訳

両方あいてをライカにすればよかった。あほのこ熱斗と愉快な仲間達。うんゲーム本編ではもっとかっこよくて可愛くて賢いこだってのは知ってる。
ゲームの炎山は渋すぎて書き辛いです…。
template : A Moveable Feast