Twilight.1
 それまでずっと被っていたフードを外した彼の姿は、驚くほどに僕とよく似ていた。
「熱斗…」
 呆然として呟いたその声を、彼の耳はきちんと拾ったらしかった。
 彼はちょっと困ったような顔をして、唇をきゅっと結んだ。
「悪いけどここは通さないぞ」
 隣にいる炎山くんが、すい、と僕の前に出る。
「光、ここは俺が何とかする。お前は先に行け」
 いいながら、PETを構えて臨戦態勢に入った彼を僕は押し留めた。
「いや、僕が行くよ」
「光?」
「熱斗は僕の弟だ。僕が止めなくちゃ」
 言いながら熱斗を、僕とそっくりな弟の顔を見つめた。
 熱斗は黙ったまま、眉一つ動かさない。でも、その雰囲気はどこかびりびりとしていて、それが緊張のせいだとわかる。
 隣でひとつ、小さな溜息。
「…わかった」
 そういって、先を目指して走っていく炎山くんには、こっそりと心の中で感謝の言葉を贈る。その背中を視界の端で見送ってから、僕は熱斗に近づいた。
「熱斗、どうしてこんなことを?」
「それはお前がオレとのネットバトルに勝てたら教えてやるよ」
 もう引き返せない。僕は覚悟を決めた。
「プラグイン――」

 同じ声が、重なる。




2008/7/24
Twilight.2
「まったく、ほんと世話が焼けるよ」
 炎山と彩斗は、いきなり空から(文字通りに)降ってきて、火を吐こうとする自律戦車を止めた少年を呆然と見つめた。
 上空でバラバラとうるさい音を立てていたヘリは、今はもう姿も見えない。
「熱斗、どうして?」
「説明はあとあと、ワイリー止めに行くんだろ?」
 快活に笑うその姿からは、以前のような翳はもう見当たらない。
「いいのか?」
 幼い頃、事情があったとは言えワイリーに連れ去られ、親子同然の付き合いをしていたという熱斗だ。敵なのか味方なのか判断がつかず、警戒を解かない炎山と彩斗に、彼はコクッと頷く。
「悔しいけど、おじいちゃんの目を覚ませるのは、今は彩斗だけだと思うし」
「どうして?」
 彩斗が首をかしげる。熱斗はにっと笑った。
「ドクター・ワイリーは、いつだって自分の家族の話には、耳を貸さないんだよ」
「は?」
「だから説明は後だって。行ってこいよ、…兄さん」


 突然ドン、と突き飛ばされて、僕とエックスは、その場から転げた。
 慌てて後ろを振り返ると、赤い色をしたゼリーのようなものの中に、長い金髪のナビが取り込まれているのが見えた。
「ゼロ…?!」
 彼の唇が、はやくいけ、と動いた。そしてずるり、と地面の中に、あっというまに飲み込まれる。
 それこそ、僕らが悲鳴を上げる間もないほどに。

 呆然としたままの僕らがプラグアウトしたとき、そこで待っていたのは、もっと信じられない光景だった。
「…熱斗?」
 炎山が止めるのも聞かず、パルス・トランスミッションシステムにプラグインしてしまったという、僕の弟。
 あの時庇ってくれたゼロ。
 嫌な予感がした。
「嘘だよね、熱斗…?」
 何とも返事をせずぐったりとしたままの弟の肩を、僕は乱暴に揺さぶった。
 そのうちぐらぐらと、島全体までもが揺れはじめたのに、彼は目を覚まさなかった。

 海辺の病院に運ばれた熱斗を見て、パパは深い溜息をついた。
 小さい頃に行方不明になった息子が、意識不明になって戻ってきた、そのショックは想像するに余りある。
 しかも犯人はプロトなのだ。――パパが、その命を賭けて戦おうとした、あの。
 熱斗はまだ目を覚まさない。他の、アネッタや砂山ノボルといったWWWメンバーのパルストランスミッションは、もうとっくに解けているのに。
 おじいちゃんから預かったデータの解析に没頭することで、パパは悲しさを忘れようとしてるみたいだった。
 炎山くんがたまに見舞いに来た。熱斗の、というよりは、熱斗に付きっ切りの僕の見舞いなのかもしれなかった。どちらにしろ、彼は意外と情に篤かった。
 いつだったか炎山くんは熱斗のことを、たったひとりのライバルだといっていた。
 たぶん、N−1グランプリで、熱斗に助けられたのもその理由のひとつだ。それに、炎山くんとブルースは、まだ、熱斗とゼロとのバトルに決着をつけていない。
 僕とエックスは、ネットバトルは弱い方じゃないけど、ゼロと熱斗みたいにものすごく強いわけじゃない。炎山くんには、ほとんど勝てたためしがないから。
 炎山くんにとっては多分熱斗は、初めて出会う同年代のライバルなんだと思う。
 だから熱斗が病院からいなくなったと知ったとき、彼ははじめて、少しほっとしたみたいな顔を見せた。
「まったく、手間のかかるやつだ」
 そう言った炎山くんはどこか嬉しそうだった。
 僕は笑って頷いた。
「ほんとに、世話の焼ける弟だよ」
 だからこそ、僕が探しに行かなくちゃ。
 こんどこそ、ずっと一緒にいたいから。


2008/7/24




言い訳

彩熱パラレル。ワイリーと熱斗の組み合わせが書きたかったのに何故かでてくるのは炎熱彩。
彩斗と熱斗のナビがエックスとゼロなのは、X本編のエックスが戦いが嫌いなのと、ゼロがよく大破して行方不明になるのと、彩斗はネットバトルは熱斗ほど上手そうじゃないのとが理由です。ちょっと兄さんは優しすぎるな…。
エグゼは一番最初をやってないので、1の設定がふわふわしてます。やりたいよー、エグゼ初代。
熱斗と炎山だと3までだと友情とライバル度がフィフティフィフティくらいだと思うのですが、彩斗と炎山だと98%友情なんじゃないかなと。
ゲーム本編の兄さんは十分好戦的だと思うんだけど、あれは熱斗くんがいるからね…。
あとこの設定でバレルと熱斗を書きたいなあ。難しいけど。あとシャーロ軍に入ってライカと仲良くなる熱斗とか。
…あ、因みにヘリ運転してるのはバレルです。
template : A Moveable Feast